噂になっているこの件、私も出回っている情報くらいしか知りませんが、一受験生の立場でまとめておきたいと思います。
ご存じない方のために簡単にご説明しますと、どうやら観光庁のお達しで2次試験の試験官に「8割くらいを合格させる目安で採点するように」という指示がJNTOの担当者からあったようだ、というものです。
この話、資格取得を目指して5年目の身としては、A5ランクの牛肉をあと少しで食せるはずが、目前で3割引シールつきの切り落とし肉に変えられちゃったような侘しさを覚えるわけです。
(何と言われようと私なりに一番しっくりくる表現がこれです。)
どうやら噂は本当らしい。
この話を私が最初に知ったのは、受験生におなじみハローアカデミーのブログからです。さらに先日、某団体の幹部の方からも同じ話を聞くこととなり、もはやこれはほぼ事実なのだと思った次第です。
先月の記事で「2次合格率は60%台に落ち着くのではなかろうかと推測する」なーんてのたまっていた素人はワタクシですよ。あぁお恥ずかしや。
でも一受験者として言わせてもらえれば、あのプレゼンテーマ群からはとてもじゃないけど「80%受からせてやろう」となんて優しい意図は感じ取れませんでしたけど(例:古墳・高野山・厄年・日本最大の木造建築・東海道五十三次…)。
今年度の1次試験合格者数は1,978名。噂通り80%が合格するなら、最終合格者は1,582人に登ることになります。
最終合格率は実際の受験者数によりますが、30%前後になるのではと予測されます。
「合格者が増える=通訳案内士が増える」なのかという疑問
さて、こんなにサービスサービスぅで合格者を増やす理由は、おもに
- 訪日外国人の激増に対する通訳案内士の不足
- 2020東京オリンピックでの需要急増に向けての人員確保
ということなのですが、ここでひとつの疑問が生じるわけです。
『資格取得者が増えたからといって、通訳案内士は増えるのか?』
通訳案内士の就業は「資格を取ったから就職して会社員になる」のような単純な話ではなく、語学力と専門性を生かして自分で活躍の場を切り開いていかなければならない専門職です。
いきなりツアーガイドとして働ける人は、一握りの飛び抜けた人材だけでしょう。大抵はしばらくの間、通訳案内士団体に所属して研修を受けつつ、単発の仕事を獲得して経験を積み、派遣会社に登録したり、自分で旅行会社に営業回りすることになるらしいです。近ごろではWebサイトを作って個人事業主として顧客を得て始める方もいるそうです。
当然、研修を受けるにも、団体に所属するにも費用がかかります。しばらくは稼ぐどころか投資でマイナスになる期間があるでしょう。しかも前述の通り、就業は保証されたものではありません。ましてや、通訳案内士で生計を立てられるのはごく一部のようです。
課題は、“数”じゃないのでは。
果たして、資格取得者を大量に増やしたところで、そもそもこの“通訳案内士”という職業を志してこの試験を受ける方が一体どれだけいるのでしょう。語学資格の一環として受けたという方も多いだろうと思います。
以前まで難関だったはずの資格が受かりやすくなったとなればなおさらです。
そうして激増させた有資格者たちを、どのように実務のフィールドへ導く目論みなのか。いくら訪日外国人が増えて需要が増そうが、結局必要とされるのは頭数じゃなくて実力の備わったプロだと思うんですよね。
であれば、今さら資格取得者を闇雲に増やす前に、多くの優秀な人材に業界に入ってもらい、質の高い仕事で活躍してもらえるような就労環境・体制を整備する方がよほど重要だったと思うんですが。モッタイナイ。
それとも国は、クオリティはそっちのけで、とりあえず自分たちが作っちゃった通訳案内士制度に則った有資格者を増やしておいて、猫も杓子もバイト感覚で、語学ができてちょっと案内できる人材さえ大量確保できれば目的達成なのでしょうか。
観光立国・・・ふっ。
結局、語学資格なのか旅行業資格なのか。
TOEICがメルマガで声高に「通訳案内士試験の免除あるよ〜」と呼び込み、これは語学資格だと主張する一方で、資格の意義は昔の『語学唯一の国家資格』『民間外交官』から徐々に遠ざかり、ついに『まずはこの資格をとってオリンピックに向けてガイドをしよう!』まで来てしまったと思う。
一体この資格はどこへ向かうのでしょうか。
ワタシなりに考えた先に見えたのが、『この資格は語学の資格なのか、旅行業実務の資格なのか曖昧になってきた問題』です。これこそが、諸々の矛盾を生んでいるのではないかと。
そして、徐々に旅行業界の「一般旅程管理主任者資格」の類に近づいているように思うのです。
これは添乗員業務をする際に必要な資格でして、ワタクシはかつて旅行会社に身を置いていたため、その昔に取得しました。科目は「法令」「国内」「海外」「英語」の4科目。旅行業従事者が協会で数日間の研修を受け、最終日にテストを受けて全科目60点以上で合格、というものです(受講生の8割は受かる)。
今の「通訳案内士資格」に国があてがおうとしているのは、『語学唯一の国家資格』でも、『民間外交官』でもなく、「これ(=旅程管理)のガイド版資格」の役割なのではなかろうかと思い至ったわけです。
このままだと、受験対象は旅行業従事者で「インバウンドの仕事もあるから取っといて」的なただの業界内資格にするつもりなのだろうかとすら想像します。
さらには資格自体の廃止論者もいると聞き、開いた口がふさがりません。みな目の前のビジネスに夢中になりすぎで、もはや質やらおもてなしやらはどっかに行っちゃってます。
かつて『訪日外国人に日本をガイドできるのは一流の語学力と知識を持つ者のみである』という崇高な理念で作られたはずの資格が、現在にあって数々の矛盾を生んでしまうのは当然の現象だと思われます。
しかしながら、難関資格時代に取得された方は言うまでもなく、今年受験した私たちも、受験生はこの資格に価値を見出して必死に頑張ってきました。
時代の変化に伴う対応が迫られている今、「2次試験80%合格させて数を増やしてしまおう」というのはあまりにも浅はかな考えではなかろうか、と(まだ合格すらしてない)一受験生は思うのでした。勉強しなきゃ。
ビジネスとして盛り上がれば、質も量も自然に上がってゆくのが資本主義なのかもしれませんが。
インバウンドの経済効果わっしょいのご都合主義で、このままこの国家資格から魂を抜き取ってしまう手段はやめてほしいなと願うばかりです。